なんだか業績が良くない…“数字の解像度”アップで実現する業績改善 ~売上はあるはずなのに利益・キャッシュが残らない会社に共通する課題とは?~
こんにちは、経営コンサルタントの鍵政達也です。
この仕事をしていると非常に多いのが下記のような話です。
「売上は伸びているはずなのに、なぜか利益が残らない...」
「社員は忙しそうに働いているのに、業績が年々悪くなっている…」
なぜこういったことが起こるのでしょうか?
今回は、その要因を考える上で大切な「経営数値の解像度」というテーマでお話ししていきます。
その業績不振、実は「数字の見方」が原因かも?
売上は変わらないのに、むしろ伸びていて忙しいのに、なぜかお金が残らなかったり、税理士さんからもらう試算表では利益が減っていたり。
そうでなくとも、一見すると順調そうに見える経営も、実は「収支の構造」が不明瞭なまま放置されているケースが少なくありません。
特に中小企業では、現場の忙しさや業務の属人化によって、数字の管理が「会計事務所任せ」や「感覚的な経営」になりがちです。
その結果、利益が出ていない原因を正確に把握できないまま、場当たり的な対応に終始してしまうこともあります。
こうした状況では、闇雲に売上を求めて営業を強化したりコストカットをしたりしても、根本的な解決にはつながりません。
そこで注目すべきなのが「経営数字の解像度」です。
経営数字の“解像度”が低いとは?
「解像度が低い」というのは、経営判断に必要な数字の内訳がざっくりとしすぎており、実態がつかめていない状態を指します。
数字の解像度が低いと、下記のような状態になっていることが多いです。
経営数字の解像度が低い会社によくある特徴
- 売上は全体の金額しか見ていない
部門別、商品別、顧客別などの細かい区分で売上を見ておらず、「とりあえず全体で〇千万円売れた」という把握にとどまっているため、どの事業や顧客が儲けに貢献しているかが不明確。 - 費用や利益がざっくりで「なんとなく黒字・赤字」
月単位の損益だけを確認していて、利益の中身(粗利、直接費、販管費など)が曖昧で、利益の変動要因が分析されていないため、対策が感覚的になりがち。 - 良い部分・悪い部分の要因分析が曖昧
売れている商品や好調な部署が「なんとなく好調」で終わってしまい、なぜ良いのか・なぜ悪いのかを明確に言語化できていないため、成功の再現や失敗の修正が困難に。 - 繁忙感があるのに儲かっていない
社員は忙しく、現場はフル稼働しているにも関わらず、利益が出ていない状態。
「忙しい=できることをやり切っている」と考えてしまっており、非効率な業務などに気付けていないことが多い。
典型的な失敗例
- 売上が好調な新サービスの影で、既存サービスが赤字続き
新サービスが好評で、売上は増加しているが、既存サービスの赤字が続いており、全体では利益が出ていない。
好調な事業の陰に隠れた赤字事業の見直しが遅れるケース。 - 利益を生んでいる優良顧客が数社だけで、他は低収益
売上上位の顧客が利益の大半を支えており、その他の顧客は対応コストばかりかかっている。
全体で黒字でも、特定の顧客への依存が高く、リスク分散ができていない。 - 出店した拠点が赤字だが、全体売上に埋もれて気づかない
全社の売上は伸びているものの、拠点別の損益管理をしていないため、新規出店の赤字が可視化されず、改善や撤退判断が遅れてしまう。
特に多店舗展開している企業に多いパターン。 - 部門別や商品別に原価・費用を割り振っていない
利益計算がざっくりしており、「売れている=儲かっている」と誤認。
実は高コストな業務フローが隠れているにもかかわらず、対処されないままになる。
これでは、どこを伸ばし、どこを見直せばいいのかが分かりません。
「解像度」を上げてどこに手を付けるべきなのか原因を探る必要があります。
セグメント別の収支を把握しよう
業績改善の出発点は、「セグメント別に収支を把握すること」です。
セグメントとは、企業の事業や拠点、取引先、活動内容などで分けたグループのことを指し、利益の源泉を見極めるうえで極めて重要です。
よく使われるセグメントの切り口として、以下のようなものがあります
- 商品別:主力製品A、ニッチ商品B、新規開発中のCなど
- 顧客別:法人顧客、個人顧客、大口顧客、小口顧客
- 拠点別:本店、支店、オンラインショップなど
これらの区分ごとに「売上」「粗利」「直接費」「販管費」「利益」を整理・集計することで、どこで稼げていて、どこが足を引っ張っているのかが明確になります。
たとえば、売上が全体で1億円あっても、
- 商品Aは利益率が高くて事業を支えている
- 商品Bは売上は多いが利益が薄い
- 商品Cは赤字だけど将来性がある
といった“収益構造の違い”が見えるようになります。
この分析が出来ていないと、見た目の売上に惑わされて非効率な投資や意思決定をしてしまうリスクがあります。
まずはざっくりでもいいので、自社の事業や販売先をいくつかのセグメントに分けて収支を把握してみることをおすすめします。
中小企業でよくある「数字の見える化できていない状態」
中小企業では、日々の業務に追われる中で「数字を見える化する体制」が整っていないケースが多く見られます。以下のような状況が重なると、業績の実態を正確に把握できず、改善の糸口が見えにくくなります。
- 売上は顧客別・商品別に分けていない
請求書や受注伝票は存在していても、売上集計が一括で処理されているため、どの顧客・どの商品が利益に貢献しているのかを把握できない。 - 経費は全体で一括処理
人件費、広告費、交通費などがすべて合算されており、どの部門や拠点にかかっているコストなのかがわからない状態。 - 原価はざっくり割合で管理
商品やサービスごとの仕入れ原価が明確になっておらず、「売上の◯%が原価」というようなざっくりした感覚だけで管理されている。 - 営業担当者別の実績がわからない
売上は部署単位でしか集計されておらず、個々の営業パフォーマンスの差異や改善点が見えないため、人材育成や評価にも影響する。 - 拠点ごとの損益がわからない
複数店舗や営業所があるにもかかわらず、収支は本社集約で処理されていて、赤字拠点の存在に気づくのが遅れることがある。
こうした状態では、「どこが強みで、どこにテコ入れが必要か」を正しく判断することが難しくなります。
解像度を高める上で肝となる指標の例
経営の解像度を高めるためには、単なる売上や利益だけでなく、構造的に事業を理解するための指標を押さえることが重要です。以下に代表的な指標を紹介します。なるべくセグメント別で押さえましょう。
- 売上総利益率(粗利率)
=(売上 − 売上原価)÷ 売上
→ 事業の収益性を示す基本指標。高ければ高いほど利益体質。 - 商品別・顧客別の売上構成比
=(特定商品・顧客の売上)÷ 総売上
→ 収益の偏りや依存の有無が把握できる。リスク分散にも活用。 - セグメント別 営業利益率
= 営業利益 ÷ 売上高
→ 各セグメントがどれだけ効率的に利益を出しているかを把握。 - 顧客獲得単価(CAC)
= 新規顧客獲得にかかった費用 ÷ 獲得顧客数
→ 営業や広告の効率性を測る指標。高すぎる場合は要改善。 - 顧客生涯価値(LTV)
= 顧客1人あたりの平均購入単価 × 購入頻度 × 継続年数
→ 長期的な顧客価値を把握し、投資判断やリテンション戦略に活用。 - 労働生産性(1人あたり売上・利益)
= 売上高 or 営業利益 ÷ 従業員数
→ 人材効率の目安。組織改善・業務効率化の基礎指標。 - 在庫回転率
= 売上原価 ÷ 平均在庫高
→ 在庫が適切に回っているかを示す。滞留在庫のリスクを管理。 - 固定費・変動費の比率
→ 売上に応じてコスト構造がどう変動するかを把握し、損益分岐点の見極めに活用。
これらの指標を組み合わせて定期的にチェックすることで、自社の収益構造や課題、強みをより立体的に把握することができます。
まずは、自社にとって重要な3〜5指標に絞り、現状の数値を可視化することから始めるのが現実的です。
数字の見える化でよくある失敗パターンとその背景
数字を見える化しようとした際に、次のようなトラブルや誤解が生じることがあります。
失敗パターンの例
- データの粒度が細かすぎて管理が煩雑になり、運用が続かない
- 現場の協力が得られず、正しい数字が集まらない
- 指標の意味や目的を社内で共有しないまま導入し、混乱を招く
- 過去データと新しい管理方法が整合せず、比較ができなくなる
背景にある課題
- 管理項目を欲張りすぎると実務に負荷がかかる
- 最初から完璧なデータを目指しすぎると進まない
- 数字を集めることが目的化してしまい、活用されない
そのため、数字の見える化は「目的に応じた最小限の指標からスタートする」「現場と協力しながら運用可能な仕組みにする」ことが成功のポイントです。
自社の業績をチェックする5つの質問
自社の収益構造を正しく把握し、課題の本質を見極めるためには、以下の5つの視点から現状を点検することが重要です。これらに答えられるかどうかが、経営数字の「解像度」を測るひとつの目安になります。
- 売上・利益はセグメント別に管理できているか?
部門、商品、顧客、拠点などの区分で収支を把握できているか。全体の数字だけで判断していないか確認しましょう。 - どのセグメントが利益に貢献しているか把握できているか?
売上ではなく「利益」に注目して、貢献度の高い領域を特定できているか。コスト構造まで見ていますか? - 業績の良し悪しを定量的に分析できているか?
「なんとなく好調」「忙しいけど利益が出ない」など曖昧な把握にとどまっていないか。数字に基づく要因分析ができているかを確認。 - 調子の良いセグメントの成功要因を言語化できているか?
競争優位性や内部リソースなど、なぜそのセグメントが好調なのかをチーム内で共有できていますか? - 課題のあるセグメントに改善の仮説が立てられているか?
原因をあいまいにせず、「何が問題か」「どうすれば改善できそうか」を定義し、次の打ち手に繋げられる状態でしょうか?
実践するためのステップ
1. まずは手元にある数字で整理を始める
「見える化は難しそう」と感じる方でも、まずは手元にあるデータを使って簡単に始めることができます。大切なのは、完璧な仕組みをいきなり目指すのではなく、現状を把握することにあります。
- 会計ソフトの月次損益データを確認し、売上・粗利・経費の大まかな流れを把握する
- ExcelやGoogleスプレッドシートで簡易的な集計表を作成し、商品別や顧客別の売上を並べてみる
- 売上上位10商品や主要顧客の情報を抜き出し、それぞれの粗利や売上比率を算出してみる
- できれば過去1〜3年分の推移を見て、変化傾向を掴む
こうした簡易的な集計を通じて、最初の「気づき」を得ることができます。細かさや正確性よりも、「今まで見えていなかったものが見えるようになる」ことが第一歩です。
2. セグメント別収支管理の進め方
セグメントは商品別、拠点(店舗)別、顧客別など売上や利益が異なると想定される切り口で検討
最初から細かく分けるのではなく、例えば、拠点別で見て拠点ごとの利益率に差があるなら、さらに拠点内の商品や顧客ごとに差を見てみる、というように順に切り分けていくと良いです。

3. 現場でよくある課題と対応
見える化の重要性は理解していても、実際の現場ではいくつものハードルがあります。
以下は中小企業で特に多い課題と、それに対する現実的な対応策です。
課題:分析する人がいない
専任を置くのが難しい場合、外部のコンサルタントや税理士と連携し、最小限の社内リソースで進める体制を構築する。
まずは月次や四半期ごとの分析だけでも始めるとよいです。
課題:データがバラバラ
販売管理システム・会計ソフト・紙帳票などが混在している場合、まずはExcelやGoogleスプレッドシートを使い、項目を統一して一覧化することで「俯瞰」が可能に。
まずは過去3年程度の数字に絞ってやってみましょう。
詳細管理が負担
すべての部門・商品を細かく管理しようとせず、最も利益貢献度の高いセグメントや問題のある部門など「優先度の高い領域」から着手する。最初は粗く、段階的に精度を上げていくアプローチが現実的。
まとめ ― 経営数字の解像度を上げることが業績改善のカギ
業績が思うように上がらないとき、やみくもに売上アップやコスト削減を行う前に、まず数字をきちんと見える化することが大切です。
「見える化」は経営の方向性を決める羅針盤となります。
どこを伸ばすべきか、どこを改善すべきか、そのヒントは必ず数字の中にありますが、それは解像度高く見ないと見えてきません。
そして、数字が「解像度高く」見えてきたら、次に必要なのは、それをもとにした具体的な戦略とアクションプランの策定です。
たとえば、
- 儲かっているセグメントへの集中投資
- 赤字事業の撤退・再編の判断
- 新しい商品開発や営業戦略の見直し
- 組織体制や評価制度の再設計
数字の「見える化」はあくまでスタートライン。
その情報を活かして実際に経営を動かしていくフェーズに進んでこそ、本当の業績改善が始まります。
このあたりの「戦略立案・アクションプラン策定」については、別の記事で詳しく解説したいと思いますので、ぜひそちらもご覧いただければ幸いです。