「理系経営」で作りあげた最強飲食チェーン!サイゼリヤの経営戦略

こんにちは、経営コンサルタントの鍵政達也です。

仕事柄、多くの経営戦略を見てきましたが、数々の事例や自身の経験においても、ほとんどが「思った通りには進まない」のが経営です。しかしながら、どの方向に進むのかその経営の道筋、経営戦略を定めるということは非常に重要です。自社の経営戦略を考える際にも他社の経営戦略には勉強になることがたくさんあります。良かったことも悪かったことも参考にしたい他社の経営戦略について私なりの視点で考察していきます。

第一回目は「サイゼリヤ」の経営戦略について。

もはや説明不要ですが、サイゼリヤはイタリアンレストランのチェーン店です。
私も家族でよく行きます。消費者目線でのサイゼリヤは、とにかく「お財布に優しい」。そして安くてもちゃんとおいしいのが大変ありがたいお店です。
そのおいしさは子どもにも伝わるようで、お子様セットやおもちゃのサービスがあるわけではありませんが、「サイゼに行きたい」とよくねだられます。これは私の家族に限ったことではないようで、いつ行っても家族連れや学生のグループなどで大賑わい。そんなサイゼリヤの経営戦略とはどんなものなのでしょうか?

コストリーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略とは、かの有名なマイケル・ポーター氏が提唱した「競合他社よりも低いコストを実現することにより、競争優位を確立する戦略」のことです。

他社より低いコストを実現することで、競合よりも商品を安く提供してシェアを獲得したり、競合よりも利益率の高い商売をしたり(その儲けは別のところで投資したり)といったことが実現できるというわけです。

サイゼリヤの創業者であり、代表取締役会長である正垣泰彦氏は「お客様のために1円でも安く」と安さを徹底的に追求する考えを示しています。正垣さんは東京理科大学出身で、その「理系経営」がコストリーダーシップ戦略を支えています。

一円でも安く!に辿り着いた経緯

正垣さんが一円でも安くするという考えになったきっかけは創業間もなくのこと。
譲り受けたイタリアンレストランが閑古鳥が鳴く状態で、赤字覚悟で価格を70%引きにしたところ、一気にお客さんが増えたことから、この考えに至ったようです。
正垣さんの理念や創業秘話などは様々なインタビュー記事などで詳しい話が掲載されていますので、ここでは経営戦略に注目して見ていきますが、とにかく安くするということに徹底的にこだわりました。
「データ」を徹底的に分析し、一円・一分でも効率化につながることを実行していく経営手法は「理系経営」として注目されました。

例えば、
・包丁を使わないキッチン(切る作業の効率化)
・ワイヤレスの掃除機を導入(コンセント差し替えの手間をなくし清掃時間の効率化)
・同じ材料を使いまわしたメニュー展開(食材ロスの削減)

などなど、一分・一円でも削減し、お客様に安く提供してもきちんと利益の出る方法を確立することができたのです。
手数料からずっと導入してこなかったと言われるキャッシュレス決済も、近年導入されました。人件費、手数料、利便性を考慮してコストパフォーマンスが良いという判断がされたのでしょう。
最近ではアプリケーションを使ったオーダーシステムも採用されています。
極限までシンプルでわかりやすいシステムがサイゼリヤらしく、無駄なコストをかけていないことが伝わります。
会計もセルフでできるようになり、人件費の高騰が進み人手不足の現代に対応するために様々な効率化施策を進めている様子が伝わります。

安かろう悪かろうにはしない「こだわり」

安くてもおいしくなければお客さんは来ません。サイゼリヤはいわゆる高級レストランではありませんが、きちんと「おいしい」が保たれています。「おいしい」「おいしくない」という感覚の問題だけではなく、イタリアからの輸入食材などを使いながら、数字で見ても、サイゼリヤの原価率は4割越えであり、食材にこだわりを持っていることがわかります。食材にコストをかけつつ安さを保っているということは、その裏側で相当なコスト削減の取り組みをしているのかが伝わります。

このようなサイゼリヤの工夫は、飲食業界でも注目されており、ミシュランをとったレストランのシェフが勉強のためにサイゼリヤにアルバイトをしに来ている、といったことも話題になりました。
飲食店経営の工夫がサイゼリヤには詰まっています。

サイゼリヤ成功のカギ

地道な海外への出店が、未来への保険になった!

サイゼリヤの最近の売上を見てみると、直近2024年8月期の売上2245億円のうち実にその3分の1が海外での売上です。

2003年、上海に初めて海外進出したサイゼリヤは、その後着々と店舗を増やしていき、今や500店舗を超え780億円という売上を上げています。
国内の売上も右肩上がりではありましたが、安倍政権下での円安で、輸入食材を多く取り扱っているサイゼリヤの国内部門の利益率は下がってしまっていました。
その後コロナ禍を経て営業利益はマイナスに。円安と物価高の影響は大きく、2023年8月期は国内の営業利益は赤字、2024年8月期にようやく若干の黒字となりました。
しかしながら、今期は過去最高の利益水準となっており、それは海外での営業利益が15%と、海外でしっかり稼いでいるからなのです。
地道に増やしておいた海外の店舗が、コロナ禍から物価や人件費の高騰で逆風にある今を支えているというわけです。

ちなみに、国内は原価率が上がっている(売上総利益率が低下)にもかかわらず、販管費(主として人件費)をおさえることで、黒字を確保しています。昨今の人手不足や人件費の高騰を考えると驚異的な改善です。

事業ポートフォリオの分散

これは事業(収益)の分散という視点です。

コロナ禍を経て皆が痛感したことではありますが、外部環境の変化から受ける影響は非常に大きいものがあります。この時、いわゆる「一本足打法」でいるとその影響をもろに受けることになります。
リスクヘッジの仕方としては、マーケット(顧客)を変えるか、プロダクト(商品)を変えるか、ということになります。
飲食店で言えば、価格帯やジャンルの違う他業態を持つなどプロダクトによるリスクヘッジを行っているところが多くみられます。

サイゼリヤの場合は、アジアなど海外市場に展開していたことが国内の収益の低迷期を支えています。
2014年以降の円安、コロナ禍、昨今の国内の物価高においても海外市場があることで高い収益性を確保できています。コロナ禍のような全世界的に影響のある事象には対応がしづらいですが、外部環境の異なるマーケットに展開していると、外部環境の変化の際の「保険」になります。
これができるのは、先述のように、地道に海外出店をしてきたということもありますが、その海外での成功の要因は、サイゼリヤが「一円でも安く」、そのための「超効率化」という考え方を国内においてしっかりと確立してきたからです。
「強いビジネスモデル」は確固たる理念から生まれます。
創業時から追求している理念が、サイゼリヤのビジネスモデルを強固なものとしています。

過去最高益も更新し絶好調のサイゼリヤ。変化の激しい時代においてどの様に対応していくのか、経営コンサルタントとして、また消費者の一人として、興味をもって見守っていきたいと思います。

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鍵政 達也